箏の音 サトキチ

<サトキチ ノート>
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 前回の投稿では三味線の皮の話をしましたが、今回は箏の音について話をして見たい。何と言っても弦楽器で大切な部分の一つは楽器に張られた弦・絃だと言う事ができる。今ここに「弦」と「絃」の二種類の漢字を並べて上げている。一般の人達は弦楽器に張られた弦と言えば迷う事無くこちらの「弦」を指す。
 ヴァイオリンやビオラダガンバ等の弦楽器の場合には羊の腸を加工させて作ったガット弦と呼ばれる物を用いている。勿論この種の弦楽器が誕生して来るには西洋人が狩猟民族であった事が大きく関わっている。そこで彼らが手にしていた狩りの道具である弓がこの種の楽器の誕生に使われた事から、漢字には弓偏の漢字を用いている。

 しかし弦楽器を用いるのは西洋人だけでも無い。むしろ弦楽器の誕生はペルシャ近辺の西アジア地方から起こっている。それが地中海沿いに伝わり、ヨーロッパ一帯に様々な楽器に改良されながら広まって行った。
 一方では逆方向のアジア方面に広まって行った楽器もあり、その一部が日本を含めて中国や朝鮮半島等の東南アジアの果てにまで伝えられた。それが私達の現在使っている箏である。現在ではナイロンやテトロン等の化学繊維を用いているが、それ以前は蚕の繭から採取した絹糸を用いていた。これは東南アジアが亜熱帯気候であり、農耕や養蚕が盛んであった事が影響している。
東洋人は極めて細い絹糸を沢山束ね合わせると強い物に成る事に気付いた。そこでこのような絹糸を弦楽器に使い始めたのである。勿論絹糸を張った弦楽器はガット弦に比べて音量こそ弱いかも知れないが、それよりも繊細な響きで鳴った。むしろ西洋人に比べて控え目な東洋人にはこちらの響きの方が合っていたのかも知れない。勿論養蚕を盛んに行なっていた東洋人にとって、羊の腸をガット弦に加工するよりははるかに簡単だった事が考えられる。この様に楽器の改良や発達には使っていた人達の生活環境や習慣が大きく関わって来る。そこで絹糸の場合には糸偏の用いた[絃]の漢字が使われている。

 楽器を良い音で響かせるのにはそれなりの工夫と努力が必要である。 声や楽器の音を含めて音楽に用いられる音に要求される事は後にも先にもその音の響きしか無い。なぜなら音楽は音の集合体から構成された芸術だからである。つまりいかに良く響いた美しい声を発生させるか、いかに楽器の持っている響きを上手に引き出すかで音の響きは決まって来る。

 これは西洋楽器だから東洋楽器だからと言った区別は全く無く、音楽を行う者としての共通な課題なのだ。例え如何に大きな音が響いても・如何に演奏技巧が優れていても、その人の鳴らした響きが汚かったのではせっかく鳴らした音が耳障りの悪い煩わしい音に感じられてしまう。結局はせっかくの演奏までが無意味な物に終わってしまうのだ。
 これは考えて見れば極当たり前の事でもある。しかし長年その音楽に関わり続けているとつい目先の事が気に成ったり、あるいは弾く曲の予定に追われたりして初心をいつの間にか忘れている。早く言うとあの曲が弾きたいとかこの曲が弾きたいといった自分の欲望に負けてしまうのだ。挙げ句の果てには自分の音はこのような音、箏の音はこのような音、知らず知らずの内に疑いの無い物として自分の固定観念が定着してしまう。慣れと言うのは恐ろしいものであり、親から子、子から孫へと遺伝であるかの様に受け継がれて行く。その結果一族全員が似た様な音だったと言う事も珍しく無い。

 最後に読んでくれたお礼に良い音で弾くコツを上げて置く。この基本と成るのがやはり箏の絃の扱いだとも言える。以前は絹糸を用いていたので、切れた絃を張り直せなければ練習ができなかったが、しかし今ではこのような心配は不要な時代だ。その分どの様な絃の張り方をしたら良い響きが出るのかさえ判らないでいる。答えは自分の箏や自分の弾き方に合った絃の張り方をするのが一番良いと言う事なのだ。
 これに一つ付け加えるとするなら、やはり弾かない時には必ず柱を外す事である。これはもっとも基本中の基本だと言う事ができ、どれだけ普段から箏の絃に気遣いをしているかの現れでもあるからだ。しかしこれさえ面倒だと実行できないでいる人もいるが、このような人は箏の音がどうのこうのと言う資格が無いと思っている。
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